職場におけるパワーハラスメントをめぐる裁判例

 

 職場におけるパワーハラスメントについては裁判事例も出てきており、行為者や適切な対応をしなかった企業の責任が問われるものも多くなっています。

 

1、誠昇会北本共済病院事件

 男性看護師が先輩の男性看護師から違法ないじめを受け、それが原因で自殺したことにつき、先輩看護師は不法行為責任を負うとした。また、病院設置者も、いじめを認識することが可能であったにもかかわらず、これを認識していじめを防止する措置をとらなかったとして、安全配慮義務違反の債務不履行責任を負うとした。(さいたま地判平16.9.24)

 

2、川崎市水道局(いじめ自殺)事件 

 職員の自殺が上司らのいじめによる精神障害の結果生じたものとして、市の安全配慮義務違反を認めた判決。国家賠償請求事件である。

(横浜地川崎支部判平14.6.27、東京高判平15.3.25)

 

3、中部電力労災保険不支給決定取消請求事件

 感情的な叱責、結婚指輪を外せ等合理的理由のない、単なる厳しい指導の範疇を超えた指導を「いわゆるパワーハラスメント」という言葉で表現し、それにより従業員がうつ病を発症して自殺したことが業務上の死亡にあたるとした。(名古屋高判平19.10.31)

 

4、日研化学労災保険不支給決定取消請求事件

 上司の言動により部下が受けた心理的負荷を人生においてまれに経験する程度に強度であったとして、部下が精神障害を発症し自殺したことが業務上の災害に当たるとした。(東京地判平19.1015)

 

 ******裁判例にみるパワハラの具体的な言動等*******

(例) ◆「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。お前のカミさんも気がし

    れん。お願いだから消えてくれ。」と言う。

   ◆「何処へ飛ばされようと俺はAは仕事しないやつだと言い触らしてやる。」と言う。

   ◆「お前は会社を食い物にしている、給料泥棒。」と言う。

   ◆業務上必要性もないのに、「結婚指輪を外せ。」と言う。

   ◆「肩にフケがベターと付いている。お前病気と違うか。」と言う。

   ◆指導の際に殊更に「お前は係長だろ。係長らしい仕事をしろよ。」、「お前は覚えが

    悪いな。」、「バカかお前は。係長失格だ。」などの言辞を用いて執拗に誹謗する。

   ◆大声で怒鳴る、ゴミ箱をける、机をたたく、灰皿を投げる。

   ◆長時間部下を机の前に立たせたまま、ミスを執拗に責める。

   ◆「お前なんていなくても同じだ。」と言う。

   ◆「お前の給料で何人社員が雇えると思いますか。」と言う。

   ◆休日に携帯電話に電話して、平日の仕事の失敗を長時間責める。

   ◆私的な遊興のために、職場での上下関係を利用して、勤務終了後のカラオケ店や

    休日のゴルフ場への個人の車での送迎をたびたび強要する。

 

パワーハラスメントが企業に与える影響

 

@「職場風土を悪くする」「本人のみならず周りの士気が低下する」

 パワハラについては、被害を受けている本人はもとより、同じ職場で働く従業員の士気が低下したり、精神的な安定を阻害することはよく言われています。次は自分が標的になるのではないか…と委縮すればパフォーマンスは下がるでしょうし会社への忠誠心も低下します。また、このように職場の環境が良くない場合、優秀な人材が他社へ流出することも考えられます。

A「時間と労力に大きなロスが生ずる」

 事案の解決までに多くの時間や労力がかかる。

B「被害者の職場復帰へのサポートコスト」

 メンタルヘルス不全に陥った被害者の職場復帰への支援には、担当スタッフの労力・時間など多大なコストが負荷される。

C「加害者及び企業の法的責任等」

 加害者はもちろん、企業も法的責任を問われる場合があります。パワハラにより被害者がメンタルヘルス不全に陥った場合には、業務上の理由によるものとして労働災害となり、労災保険給付の対象となることもあります。また、被害者が民事裁判を起こすケースもあり、内容によっては、職場環境配慮義務違反などの理由により事業主の責任が問われます。

 裁判にかかる費用と時間、人事や法務担当者の事務処理コストは膨大なものとなり、企業に大きな負担を強いるでしょう。また、裁判になり事件が公になれば、企業の評判は一気に落ちます。

 

パワーハラスメントを起こさないために注意すべき事項

 一度パワハラが起きると、企業は大きな損害を受けることとなります。起こってしまったことに適切に対処することはもちろんですが、職場でこういった問題を起こさないこと、すなわち未然の防止が何より重要です。パワハラは人間関係のトラブルの一つといえます。企業として雇用管理上の適切な措置をとることが大切です。

 1 事業主、人事担当者が雇用管理上措置すべき事項

@事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

A相談に対応する体制づくり

B事後の適切な対応

C管理職のマネジメント能力の向上

 管理職は社員が職務に専念できる良好な職場環境を確保できるように努めなければなりません。パワハラとして問題になる可能性がある行き過ぎた管理や教育的指導がないよう、研修により徹底していくことが大切です。

 2 管理職がパワハラ防止のために注意すべきこと

@職場環境に対する配慮

 日常的な職場環境に対して配慮し、職場内での活発・適切なコミュニケーションの維持に努める必要があります。朝の挨拶・声かけなども重要です。

Aパワハラに対する正しい理解・認識を持つ

B人材マネジメントの的確な推進

 社員一人一人の職業能力を高め、仕事を適切に分担させ、性化の公正な評価を行うことは管理職の基本です。そのマネジメントの過程でパワハラが行われないように留意する必要があります。

 3 管理職が自分の言動に注意すべきこと

@必要な指示は適切に

 一時的な感情で一方的に部下を傷つける言動は避けなければなりません。指導には「人を育てる」という気持ちが必要です。

A思い込みは危険

 「この程度なら許される」とか「本人の成長のために指導する」「自分は若い時もっと厳しい指導を受けてきたから当然」というのは、自分勝手な思い込みである場合があります。相手は職場での上下関係や人間関係を考え、我慢しているかもしれません。部下の立場を考え、部下の言い分を聞くことにも心がけてください。部下はつぶすと0(ゼロ)ではなく−(マイナス)になります。

B時間外・勤務場所以外においても注意

C社員以外に対しても注意

 

管理職と組織の役割、コミュニケーション、コーチング、リーダーシップ、部下育成と仕事の与え方、問題解決など職場管理者のマネジメント研修についてのご相談は、

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